パート労働者の社会保険・労働保険への加⼊

社会保険とは

社会保険とは、広い意味で健康保険・厚⽣年⾦保険・雇⽤保険・労災保険の4つを包含した概念ですが、雇⽤保険と労災保険を労働保険として区別して、健康保険と厚⽣年⾦保険を社会保険と呼ぶことがあります。

厚⽣年⾦保険や健康保険

被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲の拡大

2020年5月29日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました。

この法律は、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものです。

多様な就労を年金制度に反映するため、被用者保険の適用拡大を実施しました。

具体的には、短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件(現行、従業員数500人超)を段階的に引き下げ、2022年10月に100人超規模、2024年10月に50人超規模とします。

賃金要件(月額8.8万円以上)、労働時間要件(週労働時間20時間以上)、学生除外要件については現行のままとし、勤務期間要件(現行、1年以上)については実務上の取扱いの現状も踏まえて撤廃し、フルタイムの被保険者と同様の2か月超の要件を適用することとします。

加えて、強制適用の対象となる5人以上の個人事業所の適用業種に、弁護士、税理士等の士業を追加します。

社会保険の加入対象になる方

・従業員数101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業で働く、以下のすべてを満たす人が対象になります。

・週の所定労働時間が20時間以上

・月額賃金が8.8万円以上

・2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)

・学生ではない

労働保険は適⽤されるのか

勤務先の倒産やリストラなどの事情で失業した⼈に対し、⽣活⽀援や職業訓練などを⾏い、労働者の⽣活と雇⽤の安定を図ることを⽬的とする制度を雇⽤保険といいます。

労働保険(雇⽤保険と労災保険の総称)はどちらも政府管掌の保険であり、原則として労働者を雇⽤するすべての事業所が適⽤事業所となります。雇⽤保険の保険料は、事業者と労働者の双⽅が負担しますが、労災保険は事業者のみの負担になります。

パートタイム労働者に対し、労働保険が適⽤されるかという点については、雇⽤保険と労災保険で扱いが異なります。

雇⽤保険

まず、雇⽤保険の場合ですが、以下の方が対象になります。

(1) 適用要件

パートタイム労働者でも、以下の①及び②の適用基準のいずれにも該当する場合には 雇用保険の被保険者になります。

雇用保険の適用基準

① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。

②31 日以上引き続き雇用されることが見込まれること。

(2) 適用区分

雇用保険の被保険者は、年齢により次のような被保険者の種類に分類されます。

65歳未満:一般被保険者
65歳以上:高年齢継続被保険者※
※65歳前から引き続き同一の事業主に雇用されている方に限ります。 65歳以降に新たに 雇用された方は被保険者とはなりません。

労災保険

⼀⽅、労災保険の場合は雇⽤保険のような要件はなく、労災保険が適⽤される事業所(適⽤事業所)に使⽤されているすべての労働者が対象になります(労働者災害補償保険法3条1項)。

パート・アルバイトなどの⾮正社員はもちろん、不法就労の外国⼈労働者に対しても、労災保険は適⽤されます。

また、事業者が労災保険加⼊⼿続きを怠っている間に労災事故にあった場合でも、保険給付を受けることができます。

ただ、この場合、労災保険への加⼊⼿続きを怠っていた事業者からは、保険給付の全部または⼀部の費⽤が徴収されます。

社会保険⼿続きを怠るとどうなる

正社員の場合は、採⽤した段階で社会保険の加⼊⼿続きをするのが当然と考えられていますが、パートタイマーの場合は次のような事情で加⼊⼿続きをしていないことが多くあります。

①会社が経費節減のため加⼊をしない

②パートタイマーでも⼀定の要件を満たせば加⼊の義務が⽣じるということを会社が認識していない

③労働者が夫の被扶養者でいた⽅が得だと考え、被保険者となることを拒む

しかし、社会保険は本来、要件を満たせば企業や労働者の意思とは関係なく適⽤される強制保険です。

このため、⼿続きを怠るとさまざまな⽀障が⽣じます。

まず罰則があります。

健康保険法や厚⽣年⾦保険法では、正当な理由なく被保険者の資格の取得などの届出を⾏わなかった場合は、6か⽉以下の懲役または50万円以下の罰⾦、雇⽤保険法では同様の場合に6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦に処すると規定しています。

さらに、年⾦事務所の調査などで加⼊を怠っていると認められると、最⻑2年間についてさかのぼって保険料を⽀払うよう命じられることがあります。

社会保険は、労働者の⽣活環境などを安定させることを⽬的として整備された制度ですので、要件を満たす場合はできるだけ早く所定の⼿続きを⾏うようにしましょう。

業務災害が発⽣したとき

労働者について業務中に⽣じた負傷、疾病、障害、死亡などの災害のことを業務災害といいます。業務災害による負傷や疾病について保険給付を受ける制度が労災保険です。労災事故の治療などについて健康保険からの給付を受けることは「労災隠し」につながることから禁⽌されています。

労災保険はすべての労働者の業務災害に対して適⽤されます。ただ、保険が給付されるのは災害の発⽣状況と原因が⼀定の条件を満たしている場合です。この場合の条件とは、その災害に「業務遂⾏性」と「業務起因性」が認められるかどうかということです。

業務遂⾏性とは、災害発⽣時にその被災労働者が事業主の⽀配ないし管理下にあったかどうかということです。

たとえば、休憩時間中でも会社の指揮・監督により業務を⾏うことができる状態にあれば業務遂⾏性があると認められます。業務起因性とは、労働者が負ったケガや疾病が業務によって(起因して)起こったかどうかということです。

⼯場の機械操作中に誤って⼿を挟んだという場合がこれにあたります。最近ではアスベスト被害なども業務災害として認められています。業務災害が発⽣した場合には、労働者⾃⾝または労働者の遺族が事業所を管轄する労働基準監督署に労災保険給付の申請を⾏います。申請内容が業務災害にあたるかどうかの認定は、労働基準監督署⻑が⾏います。