「基本的信頼感」は、アメリカの発達心理学者エリクソンが提唱した概念です。エリクソンは、ヒトの人生を8つの発達段階に分解し、それぞれの段階で獲得されるべき要素や発達課題を示しました。
その一つ目の段階を、乳児期(生後からおおむね1歳まで)と位置づけ、この時期に獲得すべき、健康なパーソナリティ(人格・個性・性格)のための要素を、「基本的な信頼の感覚」として説きました。
生後間もない赤ちゃんは、泣くこと以外、まだ一人ではなにもできません。だからこそ、生きるためにはだれかの助けが必要になります。自由に動き回ることも、言葉を使うこともできないからこそ、泣いて自分の希望を周りに伝えようとしているわけです。
「お腹が減った」「おむつがきもち悪い」「背中のあたりがかゆい」と、不快だったり嫌だったりした時に、泣いて知らせたら無条件で自分の希望に応えてくれる大人の存在との間で、「アタッチメント」といわれる愛着形成が築かれていきます。
このアタッチメントは、自分の願いをかなえてくれる存在がすぐそばにいて、「いつでも助けてもらえる」「いつも見守ってくれている」という体験が繰り返されることで育まれる「他者への信頼」ともいえます。
では、この基本的信頼感が健全に育まれなかったら、どうなってしまうのでしょうか。エリクソンは書籍の中でこのように記しています。
成人において基本的信頼の欠損は基本的不信として表れる。基本的不信は、自分自身との関係や他者との関係が上手くいかなくなると、特有の方法で自分の殻に閉じこもってしまう人々に特徴的である。(『アイデンティティとライフサイクル』)
つまりエリクソンは、0歳の頃は、無条件に願いをかなえてあげるのが一番大切だと伝えているのです。そこから「自分はいつでも助けてもらえる」「自分は価値がある存在」と、自分を肯定的にとらえられる心、自己肯定感を獲得する次の段階へとつながっていきます。