職場のトラブルを抱えたときの相談先

さまざまな解決⼿段

法的なトラブルを裁判によらずに解決する⽅法や⼿段などを総称してADR(Alternative Dispute Resolution)と呼びます。

労働者と会社との間にトラブルが⽣じた場合、関係者同⼠の話し合いが⼤切です。しかし、トラブルが深刻な場合には、当事者同⼠の話し合いではなかなか解決がつかないことが予想されます。

そのような場合には、労政事務所や労働局のあっせん、労働基準監督署への申告、弁護⼠会の紛争解決センター、全国社会保険労務⼠会連合会の社労⼠会労働紛争解決センターなどの仲裁やあっせんなどの⽅法があります。

個⼈と会社の間のトラブルを扱う機関とは別に、組合と会社との関係について起こった紛争を解決する機関として、労働委員会があります。

労働委員会は、賃⾦や労働時間など労働条件をめぐる労使間の紛争が⾃主的に解決困難な場合に、中⽴・公平な第三者として仲介をし、紛争解決の援助をする機関です。労働争議の調整(あっせん、調停、仲裁)や実情調査、不当労働⾏為(正当な理由のない団体交渉の拒否など、労働者や労働組合の活動を不当に妨害する⾏為のこと)の審査を⾏っています。

こうした機関でトラブルが解決されない場合には、裁判所を利⽤した解決法を利⽤することになります。具体的には、⺠事調停、労働審判、⽀払督促、⺠事訴訟(少額訴訟も含む)などがあります。

職場のトラブルを取り扱う窓⼝

集团的使関係

労働組合に対する使用者の不当な行為

・労働委員会への申立て
救済措置、あっせん、調停、仲裁

・労政事務所への相談
相談、あっせん

個別的使関係

賃金、労働時間、休日、雇用、セクハラ、労災など契約上の問題が発生したとき

・公共職業安定所への相談
失業等給付など給付について

・労政事務所への相談
解雇など契約トラブル全般について

・労働基準監督署への相談
労基法違反や残業代不支給など

・雇用均等室への相談
セクハラ、差別など

・その他弁護士会・社労士会など民間の相談機関
トラブル全般についての相談

・労働局への相談
解雇、セクハラ、採用などのトラブル

・労働審判
個々の労働者と事業者との間に生じた民事紛争について管轄の地方裁判所に申し立てる

※話がこじれたとき最後は民事訴訟へ

・仮処分の申立て
緊急の必要性のある場合

・民事訴訟の申立て
処分の違法性を判断

・民事調停の申立て
当事者の合意による解決をめざす

・支払督促の申立て
賃金や残業代など金銭の支払いを求める場合

労政事務所の紛争解決制度

労政事務所は、地⽅⾃治体が労働紛争の解決のために独⾃に設置している機関の総称ですが、⾃治体によっては設置していないところもあります。

運営⽅針や名称も各⾃治体で異なります。⼤都市圏ではたいてい他の機関とは独⽴して活発に活動していますし、その地⽅特有のケースに特化した対応に重点を置いている⾃治体もあります。

たとえば、東京都の場合には、東京都労働相談情報センターという名称の機関が労働紛争の解決に向けて⼿厚い⽀援を⾏っています。しくみとしては労働局などと同様、センターの担当者があっせんによって労使の間に⼊る⽅式ですが、状況に応じて柔軟に対応しています。

労働基準監督署への申告

労働基準監督署(労基署)は、労働基準法(労基法)に違反している会社を是正する役割を担っている国の機関です。会社が労基法に違反している場合、労働者は労基署にその事実を申告することができます。

申告を受けた労基署は、その使⽤者から事情を聞いたり、直接出向いて検査を⾏って事実関係を確認します。

そこで労基法違反の事実を把握すると、その使⽤者に指導(会社に改善を求めること)・勧告(会社に労基法を守るように求めること)を⾏います。

労働問題についての相談先と⾔うと、「何もかも労基署が対応してくれる」というイメージがありますが、労基署はトラブルを解決してくれる機関というよりも、会社の⾏為を是正する機関と考えておいた⽅がよいでしょう。

個別労働関係紛争解決制度

労働者と会社間のトラブルが発⽣するのを未然に防いだり、迅速に解決するために作られた制度です。

無料で援助を受けることができるため利⽤しやすいのが特徴で、深刻な状況となる前に解決できる場合もあります。個別労働関係紛争解決制度によって都道府県労働局には総合労働相談コーナーが設置されています。

相談コーナーは、労働問題に関する総合的な窓⼝で、寄せられた相談内容が紛争解決援助の対象となる場合とそうでない場合とに適切に振り分けています。

個別労働関係紛争解決制度の内容は次の通りです。

①情報提供、相談を⾏っている

②助⾔と指導が⾏われる

③紛争調整委員会のあっせん

あっせんとは、紛争当事者間の話し合いに紛争調整委員会が介⼊することです。その上で、双⽅の⾔い分を確かめ、紛争当事者間の話し合いを促進することで紛争の解決を図ることをいいます。

当事者間での話し合いによる解決に⾄らなかった場合には、紛争調整委員会によるあっせんを受けるか、他の紛争解決機関による解決をめざすことになります。

あっせんを利⽤する場合にはあっせん申請書を提出します。

当事者の双⽅または⼀⽅からあっせんの申請があった場合で、その紛争を解決するために必要があるときは、紛争調整委員会のあっせん委員があっせんを⾏います。

あっせん委員は、当事者間をあっせんし、双⽅の主張の要点を確かめ、状況にあわせて紛争の解決にむけて尽⼒してもらえます。あっせん案は、話し合いの⽅向性を⽰すもので、その受諾が強制されるものではありません。

しかし、当事者間であっせん案に合意した場合は、そのあっせん案は⺠法上の和解契約の効⼒をもちます。

当事者があっせん案に合意した場合は、それでトラブルは解決します。あっせんが合意に⾄らなかったり、相⼿⽅があっせん⼿続に参加しなかった場合には、トラブルは解決しませんので、労働審判や訴訟など別の解決⼿段を求めることになります。

労働局雇⽤均等室の紛争解決援助制度

性別を理由とした昇進・昇格についての差別的な取扱い、セクハラ、育児休業等を理由とする不利益取扱い、パート労働者に対する不当な取扱いといったトラブルについては、労働局雇⽤均等室の紛争解決援助制度による助⾔・指導、調停を利⽤することができます(前述の個別労働関係紛争解決制度とは別の制度です)。

労働組合の利⽤

労働者と会社との間にトラブルが⽣じた場合、個⼈として争うのではなく、労働者全体として労働組合を通じて争った⽅が適切な場合もあります。労働組合とは、労働者が労働条件の維持改善などを⽬的として⾃主的かつ⺠主的に運営する団体です。

職場内での悩みなども労働組合に相談することで解決への道筋がつく場合もあります。なお、労働者が2⼈以上いれば労働組合を結成することができます。

また、同じ企業で働く労働者で作る企業内組合だけが労働組合ではありません。

労働組合に相談したいことがあるにもかかわらず⾃分の会社に労働組合がないような場合には、企業外の労働組合に加⼊することもできます。

ユニオン(会社外の労働組合で個⼈でも加⼊できるもの)や合同労働組合(会社外で組織された労働組合が集まったもの)といった名称で活動している労働組合には、職種や加⼊時の⼈数を問わないものが多くありますから、労働組合に加⼊したい場合には、インターネットなどを使って最寄の組合を検索してみるとよいでしょう。

労働委員会の相談・助⾔の利⽤

労働委員会は、もともと労働組合と会社側の労使紛争(集団的労使紛争)を解決するために設置された機関ですが、現在では労働者個⼈と会社側との紛争解決にも取り組んでいます。

各都道府県に設置されている労働委員会は、個別労働関係の紛争解決のためにあっせんや相談・助⾔などを⾏っています。

労働委員会によるあっせんや相談・助⾔は、概ね労働局の制度と同じですが、運⽤の基準は各⾃治体によって異なっており、全国⼀律ではありません。そのため、事前にどのような基準であっせんや助⾔が⾏われているのかを調べた⽅がよいでしょう。

この制度を利⽤するのに向いている内容は、やはり労働委員会の設置⽬的である集団的労使紛争の解決に近い内容、つまり労働組合が関係する紛争を抱えている場合でしょう。