労働者と会社のトラブルについて裁判所による解決の⽅法

⺠事調停

⺠事調停は、⺠事に関する紛争について、管轄する裁判所の調停委員会が話し合いの仲介をし、当事者双⽅の歩み寄りによって紛争を解決する⼿続きで、労働事件でも活⽤されています。

調停の申⽴ては、相⼿⽅の住所地を管轄する簡易裁判所に調停申⽴書を提出して⾏います。

申⽴書が裁判所で受理されると話し合いが⾏われます。話し合いは、当事者と調停委員がテーブルを囲んで⽐較的和やかな雰囲気で⾏われます。裁判官は⼿続きの要所要所に出席するだけで、主に調停委員が当事者から事情を聞いて、紛争の要点を把握していきます。

なお、せっかく調停を申し⽴てても、相⼿⽅が調停期⽇に出席しない場合や、出席したとしても合意が得られない場合には、調停は不成⽴となります。

⺠事調停の話し合いがまとまれば、裁判官の⽴ち会いのもとに、合意内容が読み上げられます。

調停が成⽴した場合に作成される調停調書には訴訟による確定判決と同⼀の効⼒が与えられます。相⼿⽅が調停の内容を履⾏しない場合は、強制執⾏に踏み切ることもできます。

調停が合意にいたらないで終わっても(調停不調)、2週間以内に訴えを起こせば、最初から⺠事訴訟を起こしたのと同じことになります。

労働審判

労働審判は、労働契約などに関する労使の紛争につき、裁判官(労働審判官)1名と専⾨的知識をもつ労働審判員2名で組織する労働審判委員会が、調停を試み、解決しない場合に、審判によって実情に即した迅速・適正な解決を図る制度です。

労働審判では、原則として3回以内で審理が終了するとされているため、迅速に解決を図ることが可能になります。審理は約1か⽉おきに⾏われ、3回の審理で3〜4か⽉あれば通常は結論がでます。

労働者個⼈と使⽤者間で⽣じた労働に関する紛争が対象になります(個別労働関係紛争)。具体的には、解雇や賃⾦カット、残業代の未払いなどがあります。そのため、労働組合を通じて労働者全体として争うものは労働審判の対象にはなりません。

また、労働に関する紛争が対象であるため、使⽤者と労働者間の借⾦トラブルなども対象外です。さらに、労働者同⼠の紛争は対象になりません。

ただ、セクハラ被害については、使⽤者にも責任がある場合もあるので、使⽤者を相⼿⽅として労働審判を申し⽴てることができるとされています。
審判の申⽴ては、地⽅裁判所に対して、当事者が書⾯によって⾏います。申⽴⼿数料は通常の⺠事訴訟の半額です。

たとえば、80万円の未払賃⾦の⽀払いを求める場合には4000円の⼿数料が必要です。代理⼈を⽴てる場合は、⼿続きの適正を確保するため、弁護⼠を代理⼈としなければなりません。

当事者の意⾒陳述の聴取や争点・証拠の整理は迅速に⾏われ、原則として3回以内の期⽇で審理が終了します。

審判⼿続は、⾮公開で⾏われ、労働審判委員会が相当と認めた者だけが傍聴することができます。原則として話し合いである調停による解決をめざします。

ただ、調停に⾄らないときは、⼀定の法的拘束⼒をもつ審判がなされます。

もっとも、審判に不服のある者は、2週間以内に異議申⽴をすることができ、その場合は、訴訟⼿続に移⾏することになります。

また、労働審判委員会は、事案の性質上、審判を⾏うことが紛争の迅速・適正な解決につながらないと考えられるときは、審判⼿続を終了させることができ、訴訟⼿続きに移⾏することになります。

⽀払督促

会社が賃⾦不払いの事実を認めながらなかなか⽀払いに応じない場合には、⽀払督促という⼿段が有効です。⽀払督促は迅速かつ簡単に⽀払いを実現させる法的⼿続きです。

債権者からの申⽴てを受けて、裁判所書記官が債務者に対し債権の⽀払いをするように命令を出します。申⽴てを受けた裁判所書記官は、証拠調べや債務者に事情を聞くなどの⾏為は⼀切⾏わず、債権者の申⽴書を形式的に審査するだけで⽀払督促を出します。

まず、相⼿⽅の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申⽴書を提出します。相⼿⽅が法⼈(会社など)であれば、請求する債権が⽣じた⽀店や営業所の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し⽴てます。⽀払督促の場合は、請求⾦額に関係なく、必ず簡易裁判所に申⽴てをします。申⽴⼿数料は請求⾦額によって決まりますが、訴訟の場合の半額です。

⼿数料は収⼊印紙を貼って納めます。その他に送達費⽤として切⼿代が必要です。送達費⽤については、ケースによって異なりますので、管轄の裁判所に問い合わせてください。

⽀払督促の申⽴てが受理されると、裁判所書記官は⽀払督促を発令します。裁判所へ⾏く必要があるのは、督促の申⽴てとその後の仮執⾏の申⽴⼿続きのときだけです。

申⽴てがなされると、正本は相⼿⽅に送達されます。相⼿⽅は、送達を受けた後2週間以内であれば、異議申⽴てができます。

異議申⽴書は、特に不服の理由を記載する必要はなく、印紙代も不要です。ただし切⼿代はかかります。

送達後2週間経っても相⼿⽅から異議申⽴てがなければ、債権者は裁判所に仮執⾏宣⾔の申⽴てをすることができます。

仮執⾏宣⾔とは、⽀払督促が確定していなくても、仮に強制執⾏してもよい、ということです。

仮執⾏宣⾔の申⽴ては、その申⽴てが可能になった⽇から30⽇以内にしておかないと、⽀払督促⾃体が失効しますから注意してください。

その後、仮執⾏宣⾔付きの⽀払督促が相⼿⽅に送達されますが、これを受け取ってから2週間以内に異議申⽴てがなければ、⽀払督促は確定し、訴訟の場合の確定判決と同じ効⼒を持つことになります。

なお、異議申⽴ては、仮執⾏宣⾔付⽀払督促が法的に確定してしまうのを防ぐだけの効果しかなく、実際に執⾏を⽌めるには、相⼿⽅が新たな訴訟を起こすしかありません。

⺠事訴訟

紛争の当事者のうち、最初に訴えを起こした⽅を原告、訴えを起こされた⽅を被告といいます。⺠事訴訟は、当事者の⼀⽅が訴状を裁判所に提出することによって始まります。

訴状が提出されると、裁判所は、訴状の副本(コピー)を被告に送付します。あわせて、訴状に書いてあることについて、認めるのか反論するのかを書いた答弁書を、裁判所に提出するよう求めます。

また裁判所は、期⽇に裁判所へ出頭するように当事者双⽅に呼出状を送ります。この期⽇が⼝頭弁論期⽇です。

⼝頭弁論期⽇には、まず、原告が訴状を⼝頭で陳述します。

次に、被告がすでに提出してある答弁書に基づいて、原告の陳述内容を認めるのか、それとも反論するのかを⼝頭で答えます。

次に、争点を整理する作業が⾏われます。原告の請求のうち、被告がどのような点を争っているのかを明確にするのです。

事実関係について争いがあれば、どちらの主張が正しいのかを判断するために証拠調べが⾏われます。

そして、原告・被告のいずれの主張が正しいのかを裁判官が認定し、訴状の内容の当否について裁判所が判断できるようになると、⼝頭弁論は終結します。

⼀定の期⽇が経過すると、裁判所はあらかじめ指定しておいた期⽇に判決を⾔い渡します。

判決は、原告の請求に対する裁判所の判断です。裁判所が、原告の請求が正しいと判断したときは、原告の請求を認容します。この場合は、訴状の「請求の趣旨」欄に記載通りの判断、たとえば、「被告は原告に対し⾦○○を⽀払え」といった判決を⾔い渡します。

原告の請求が正しくないと判断したときは、請求棄却(訴えそのものは受け付けるが原告の訴えが正当ではないとするもの)の判決になります。この場合は、「原告の請求を棄却する」という判決を⾔い渡します。

なお、訴訟中に和解が成⽴することもあります。訴訟上の和解は、原告と被告が、訴訟⼿続の進⾏中に、⼝頭弁論期⽇において裁判所(裁判官)の⾯前で、お互いに譲歩して訴訟を終わらせる旨を陳述することによって成⽴します。

当事者側としては和解勧告を受け⼊れる必要はありません。裁判の状況や判決までの時間的・経済的負担を考慮して和解に応じるか否かを判断すべきです。訴訟上の和解が成⽴すると、訴訟は当然終了します。和解の内容が和解調書に記載されると、この調書には訴訟の確定判決と同様の効⼒が⽣じることになります。

判決に対して、原告・被告双⽅とも不満を抱くことなくそのまま受け⼊れれば、その後2週間で判決は確定します。しかし、原告・被告のいずれかが判決に不服で、⾼等裁判所または地⽅裁判所に控訴という⼿続きをとると、判決は確定しません。訴訟は、ひとつ上級の裁判所へ移ることになります。

少額訴訟

少額訴訟で扱われるのは、60万円以下の⾦銭請求に限られています。したがって、動産の引渡しを請求する訴えなどの場合には、この⼿続きは利⽤できません。

少額訴訟については、裁判所の受付センターや受付窓⼝に各種の訴状の定型⽤紙が備え付けられていて、それに適宜必要事項を記載すればよい形になっています。

少額訴訟では、原則として1回の期⽇で双⽅の⾔い分を聞いたり証拠を調べ、直ちに判決が⾔い渡されます。この点は、迅速な解決を望む者には歓迎すべきことですが、⼀⽅で、事前準備を⼗分に⾏わなければ敗訴するおそれが⾼いともいえます。

もっとも、特別な事情がある場合には、1回の審理で終わらず期⽇が続⾏となる場合があります。たとえば、重要な証⼈が病気などで出頭できなくなった場合や、和解の試みなどにより審理の時間が⾜りなくなったような場合です。

さらに、通常の⺠事訴訟では、提出が認められている証拠について特に制限はありませんが、少額訴訟では、証拠調べはすぐに取り調べることができるものに限られています。証拠としては、出頭している当事者本⼈、当事者が連れてきた証⼈、当事者が持参した書証や検証物などを挙げることができます。

通常の⺠事訴訟では、判決に不服がある者は、上級裁判所に上訴(控訴・上告)することができます。

しかし、少額訴訟は⼀審限りで、判決に対して控訴することは認められていません。

ただし、不服がある場合には、判決をした簡易裁判所に異議を申し⽴てることができるしくみになっています。

異議が認められると、少額訴訟の⼿続きは通常の⺠事訴訟⼿続きの第⼀審⼿続きに移⾏することになります。

なお、少額訴訟は、利⽤回数が制限されています。同⼀の原告が同⼀の簡易裁判所に対して⾏うことができる少額訴訟の申⽴回数は、年間10回までに限定されています。

また、被告には通常訴訟に移⾏するよう求める申述権もあります。これにより、被告が少額訴訟に同意しない場合は、通常訴訟に移⾏することになります。

さらに、少額訴訟で原告の請求が認められた場合には、判決の中で被告に⽀払猶予が与えられることもあります。これは、裁判所が、被告の資⼒やその他の事情を考慮して、3年以内の期限で⾦銭の⽀払を猶予したり、その期間内に分割で⽀払うことを定めるというものです。

仮処分

仮処分とは、従業員が不当解雇された場合の賃⾦の仮払いを求める仮処分など、⾦銭債権以外の債権を確保するためにあらかじめ⾏う⼿続きのことです。

仮処分の申⽴てを⾏う場合、まず、裁判所に「仮処分命令」の申⽴てをします。申し⽴てる裁判所は、原則として、債務者の住所地を管轄する地⽅裁判所です。

申⽴書には、被保全債権の内容と保全の必要性を明らかにする資料、⽬的物の⽬録・謄本などを添付します。申⽴てを受けた裁判所は債権者に審尋(⾯接)などをします。審尋では、保全の必要性や保証⾦の決定などについて裁判所が債権者に質問をし、裁判所が決定した仮処分の保証⾦を納付します。その後に裁判所が仮処分の決定をし、実際の執⾏がなされます。

権利関係について債権者に著しい損害や危険があり、それを避けるために⾏う処分です。

たとえば、解雇の不当性がトラブルになった場合、訴訟で決着がつくまでの期間について、従業員としての地位を会社に認めさせて、賃⾦が⽀払われるように裁判所に申し⽴てることができます。これを従業員(労働者)の地位保全および賃⾦仮払いの仮処分の申⽴てといいます。